日本国内では現在、17社のセメントメーカーが30のセメント工場を操業している。2018年度のセメント生産高は6007万4000㌧。このセメントの生産に伴いセメント工場では、産業界や家庭から発生する廃棄物や副産物を原料や燃料などとして2858万3000㌧受け入れた。セメント産業はいまや、インフラを構築する原料を供給する社会の動脈であるとともに、廃棄物・副産物をリサイクルする静脈になっている。首都圏近郊の栃木県佐野市に位置し、リサイクル原燃料使用率で国内トップを誇る住友大阪セメント栃木工場を取材した。■1㌧で679㎏を再利用 1㌧のセメントを作るのに、日本のセメント工場全体では平均471㌔㌘(2017年度実績)の廃棄物・副産物を原燃料として再利用している。これに対して住友大阪セメント栃木工場で使うリサイクル原燃料は1㌧当たり679㌔㌘(同)と、平均と比べ200㌔㌘以上も多い。 リサイクル原燃料の大幅な上乗せに効果を発揮しているのが、同工場内で09年4月に運転を開始したバイオマス発電設備だ。建築廃材を破砕した木質チップを主燃料とし、熱回収効率の高い内部循環流動床ボイラで燃やしている。定格出力は2万5000㌔㍗で、人口11万8079人・世帯数5万1653世帯(19年11月1日現在)の佐野市の全世帯の電力需要を賄うことができる。発電した電力を工場内で使うとともに外部に送電している。 燃料は建築廃材が主体だが、石炭も9%使っている。木質チップに含まれる水分が増えると石炭を混ぜて出力を上げる必要があるからだ。「石炭の使用量をどうゼロに近付けていくかが課題だ」と工場の担当者は話す。■世界唯一の「カプセルライナー」 住友大阪セメント栃木工場は、佐野市葛生地区にある唐沢鉱山から産出する石灰石を主な原料とし、1938年、ドライキルン2基で操業を開始した。現在は焼成能力の高いNSPキルン1基で年間90万㌧を生産、首都圏や南東北に出荷している。 同工場では、排ガス中の粒子を高効率に捕集する「排ガスバックフィルター」を日本で初めて導入するなど先駆的に環境対策に取り組んできた。 唐沢鉱山から採掘した石灰石を工場まで運ぶため、世界で唯一の「カプセルライナー」と呼ばれる設備も81年に導入した。これも環境対策の一環だ。従来は石灰石を、軌道を使って運搬していた。 カプセルライナーでは、地下に埋設した延長3.2㌔、口径1㍍のチューブ状のトンネルを使用し、空気圧送で石灰石を運ぶ。これによって、周辺の道路交通や環境への影響をなくすことができた。■台風19号の災害廃棄物を受入 大地震や風水害、土砂災害が全国で増加する中、セメント業界では04年の中越地震以降、災害廃棄物の工場への受け入れを行っている。16年4月に発生した熊本地震では、木くずや畳、廃プラスチック、瓦、陶器、ガラス、混合廃棄物など計21万5400㌧を受け入れた。 昨年10月12日に日本に上陸した台風19号は、東日本を中心に甚大な被害をもたらした。住友大阪セメント栃木工場がある佐野市でも、市内を流れる秋山川の堤防の決壊などによる浸水被害があり、大量の災害廃棄物も発生した。 同工場も浸水によって一時操業を停止したが、10月15日から操業を再開。市の要請を受け、水没した畳や家具の木くずの受け入れを開始した。大橋博工場長は、栃木県内の広いエリアで発生している災害廃棄物を視野に入れ、「地域に対し、できる限りの貢献をしていきたい」と話していた。