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■登録日 2018年1月4日  


インフラは地域を動かす。人の心も動かせる。

▲ダム見学会の模様▲篠原靖准教授

 八ツ場(やんば)ダムの本体建設工事が最盛期を迎えている。「巡航RCD工法」によるコンクリートの打設は、2017年10月末現在、完成時のダム高116㍍の約4割の高さにまで進捗。群馬県吾妻郡長野原町の吾妻渓谷では、ダムの2021年度末の完成という目標に向かって縦横に躍動する人の声や重機の音がシンクロする。一方で、65年もの長きにわたり、時代の波に翻弄され、大きく揺れ動いた地域社会もまた、ダム完成後の自立という目標に向かって、再生・創生の道を力強く歩み始めている。その基軸となっているのが、長野原町と国土交通省八ツ場ダム工事事務所、そして跡見学園女子大学―の3者によるインフラツーリズムをツールとする産官学連携だ。“観光を学ぶ女子学生が種をまき、町民が水をやる大作戦”と銘打ったこの取り組みは、インフラが地域社会や地域経済に果たす役割について私たちに再考を促し、これまでにはなかったインフラの価値創造の可能性さえ示そうとしている。

■地域の持続可能性を高める 「自立への道筋示す」PJ始動 

 八ツ場ダムとその周辺地域をフィールドとした3者の産官学連携は、2016年度の跡見学園女子大学(東京都、山田徹雄学長)と、長野原町との相互協力に関する包括協定の締結に始まる。長野原町(萩原睦夫町長)がこの地域の持続可能性を高めようと策定した「長野原町まち・ひと・しごと創生総合戦略」の最大の狙いは「『観光交流人口の拡大』と『市民の地域振興への参画』によって同町を活性化することにある。

 2016年7月からスタートした「長野原町に新しい芽を出そうプロジェクト」は、同町、国土交通省、同大学―の産官学連携による観光地域振興プロジェクトであると同時に、同町の持続可能性を証明し、合わて地域の自立の道筋を示そうという大掛かりなチャレンジでもある。

 2017年度のこのプロジェクトは、さらに五つのプロジェクトに取り組んでいる。

 その一つは「川原湯温泉ブランド化・リピーター拡大研究」。川原湯温泉の強みと弱みを地元の若者と跡見学園女子大学の学生が共同で分析し、同温泉の5年後のあるべき姿をデザイン。具体的な同温泉のブランド化に向けたアクションプランを作成する。

 二つ目は、「やんばツアーズ・女子大学生コンシェルジュ&ジオパーク連携商品の開発」。これは国土交通省八ツ場ダム工事事務所が17年4月から開始した「やんばツアーズは日本一を目指すインフラツーリズム」を合言葉に、日本初のダムと地域観光の案内役として、やんばコンシェルジュを育成。一般市民などには難しいダム観光を楽しく、分かりやすく案内する仕組みを整備する。

 やんばツアーズの旅客と、日本ジオパークの認定を受けている浅間山北麓ジオパークの観光をともに連携させ、観光客にお金を落としてもらえる仕組みを地元の人たちと学生が共同で研究する。

 あとは「酒蔵・地酒ツーリズム」「国土交通省道路局主催の全国大学道の駅インターンシッププロジェクト」「長野原町役場インターンシップ生派遣」―の三つのプロジェクト。

 長野原町は25年には人口が約5500人まで減少すると予測されている。いずれのプロジェクトもが地域の魅力を創出し、都会からの「人の流れをつくること」や、地域の自然、歴史文化、農林産物などを魅力ある地域資源として発信し、「都市部からの観光客や移住者の誘致」につなげていくことが目的だ。

 かゆいところにも手が届くように、考えに考え抜いた「長野原町に新しい芽を出そうプロジェクト」の中でも、やはり中核となるのは、日本一のインフラ観光ツアーとすることが目標の「やんばツアー」だ。

■「やんばツアー」を日本一に 八ツ場ダム訪問者が急増

 「いまだけ、ここだけ、あなただけ」をコンセプトとして個人(1~20人)向けと、団体(10~50人)向け―の2コースを設定、その上でそれぞれ見学や体験ができる五つのプランを用意した。

 例えば、個人向けには期間限定かつ吾妻ならではの「ホタル観賞と夜間工事見学会」「吾妻峡の紅葉とダム見学会」の他に「真冬の新名物!樹氷とダム見学会」と名付けたプランを準備。

 団体向けには「やんばコンシェルジュご案内ツアー」や、訪日外国人向けに「Yamba Inboundツアー」を、小中学生向けには「まるごとやんば体験ツアー」を用意するという周到さだ。

 こうしたニーズを鋭敏に感じ取り、魅力あるサービスを提供しようという姿勢は、長野原町への訪問者数の変化となって如実に表れ始めている。

 16年度と17年度とではツアーの内容も異なるので単純比較はできないものの、国交省八ツ場工事事務所によると、17年4月~11月の個人向け現場見学会には前年同期に比べ2.8倍の約5400人が八ツ場を訪れ、団体向けツアーに至っては120倍の約1万2000人が八ツ場の地に立ったという。

 女子大生が水を得た魚のごとく躍動。時代に翻弄され続けてきた地元の人々の故郷に対する思いを呼び覚まし、この間「より良いもの」「より地元に喜ばれるダムを建設したい」とがんばってきた歴代の国交省八ツ場ダム工事事務所職員の気持ちとを結び付けた。その「触媒」になったのが、跡見学園女子大学観光コミュニティ学部の篠原靖准教授だ。

 もとは旅行業界にあって、30年もの長きにわたってマーケティングや商品開発など幅広い業務を担い、「内閣府地域活性化伝道師」や「総務省地域力創造アドバイザー」を務めた篠原准教授の持論は、「観光は巡るものではなく、創り出すもの」ということであり、特に強調するのは「世界を市場と捉えた視点」を持つことの重要性だ。

■少子高齢社会のキーワードは「対流」 インフラの『ドラマ』を地域資源に

 「少子高齢社会の日本では、従来型の観光はもはや成り立たない。キーワードは『対流』だ。幸い、道路インフラの整備効果でいろいろな方向への移動を可能にする結節点や経路が増加している。政府は2020年の訪日外国人観光客数4000万人という目標を掲げているが、観光コンテンツを創出し、育て上げていくことでこの目標達成も可能になる」と話す。

 その上で、「黒部第四発電所(ダム)の建設には男たちのドラマがあった。インフラツーリズムの一つのモデルケースだ。宮ケ瀬ダム(神奈川県)も人気のあるダムだし、早明浦ダム(高知県)でもインフラツーリズムの取り組みを検討しようとしている」と話す。「地域のインフラにはドラマがある。その『インフラのドラマ』を資源の一つとして地域の活性化につなげていくことは十分可能だ。『観光』という視点からインフラを見詰めてみる。ただし、その時、『どうすれば地元にお金が落ちるか』という、それぞれの地域に拠って立った着眼も抱き合せて持つ必要がある。そうすると存外、新しい気付きがあるものだ」

 篠原准教授と「いまだけ、ここだけ、あなただけ」をコンセプトとしたコンテンツを一緒に創り上げてきた、前・国交省八ツ場ダム工事事務所長の矢崎剛吉氏は言う。

 「目下の八ツ場の最大の課題は2年半後に迫った『完成後を見据えて何をするか』だ。この町の持続、この地域の自立のために自分たちには何ができるだろうと考え続けてきた。インフラツーリズムの話を聞いたとき、初めは懐疑的だった。だが、この取り組みを通じて、長野原町の人たちがどんどん能動的になっていくのが分かった。この町の将来について考え、自立の道の模索を“自分事”として受け止めてくれるようになった。このプロジェクトは決して楽ではなかったが、0を1にすることの難しさとともに、楽しさも教えてもらった」

―インフラの価値を最大化する―

 インフラは、国民生活と経済活動の基盤であり、安心・安全な暮らしを守る礎だ。

 だが、インフラの価値であり、存在理由はそれだけなのか。

 少子高齢社会にあって、「コンパクト+ネットワーク」と「対流型」をキーワードとする国土形成の必要が言われるようになっているいま、インフラの価値を地域の経営資源として最大化する取り組みもまた、求められているのではないだろうか。


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