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■登録日 2018年1月4日  


―土木に哲学を―この国の「安寧」を支えるために

土木学会・大石久和会長インタビュー

▲大石久和会長

 この国に到来した人口減少の波は、建設業をはじめとした産業の構造や、人々の働き方だけでなく、人々の暮らしと生産活動を支える社会資本整備の再定義を迫っているかのように見える。世界に類を見ない多様で魅力ある気候風土とともに、極めて脆弱な国土構造を持つ日本では、いま、気候変動の影響と考えられる自然災害が頻発し、しかも激甚化する様相さえ見え始めている。「国土に働き掛けることによってはじめて国土は恵みを返してくれる。いかに国土に働き掛けていくのか」を主題とする「国土学」を提唱し、さらに、第105代土木学会長として「安寧の公共学」の構築をけん引、この国の持続可能性の最大化に土木の世界から貢献しようとしている大石久和氏に、社会資本整備の中核を担う「土木技術者としての在り方」を問うた。 

■考えたい存在理由「国土への貢献」

 ―会長に就任以来、「土木には哲学が必要」と話されている。なぜか。

 「土木は、数学を用いたテクニックではない。調査、設計、施工の事業領域はもちろん、発注者の代表である国土交通省から、東京都をはじめとする地方公共団体・研究機関まで、土木に従事する人々が目指すものは何か。それは国民の安全で効率的、かつ快適な暮らしを実現することだ。知的生産の全ての領域が土木だと私は言っている」
 「目的関数のターゲットには『人々』がある。人間とは何か、何のために存在しているのかを考え、深めていく学問分野が哲学だ。私たち土木に携わる者が人々の暮らしの安全性を高めるために何をするのかを考え、深めていこうとすることと全く同じことだ。たえず地平を意識するとでもいうか、私たち土木に携わる者は『何のために存在する存在なのか』という意識が原点にないといけないと思う」
 「その人間(国民)の存在は、拠って立つべき国土を抜きにしては存在し得ない。国土に働き掛けて、国土から恵みを得るという、最も直接的な学問分野、あるいは行為が土木だ。私たち日本人はこの国土によってつくられてきたし、この国土に寄り掛かって私たちの暮らしを良くしていく以外に方法はない。土木に携わる者は、人と、人が拠って立つ国土への貢献を常に考える存在でありたい」

 ―「土木を広く、深く捉えよう」とも呼び掛けている。その意味するところは。

 「国民の安全を守り、暮らしをより良くするための土木の量は十分なのか―。日本の国内だけを眺めているだけでは、この答えは出ない。誰かと比較して、安全になったか、なっていないかを判断することになるし、そういう視野の持ち方が必要だ」
 「この20年間、日本の公的固定資本形成における土木への投資は、増加あるいは堅調に推移している欧米のそれとは真逆にある。これはおかしい、という声がなぜ土木の世界から起こらないのか。私たちの国がどこの国よりも災害に対して安全な国になっているのならそれでいいかもしれないが、実際のところはどうか。私たち日本人は財政のために生きているのでない。財政は生きていくための手段でしかない。その手段に引きずり回されていながら、黙っていていいのか。私は、何も政治にコミットメントしようと言っているのではない。政治がその判断をすべきだという主張だ。こうした主張は学会として行ってもいいと思うし、米国の土木学会などは現にこうした活動を行っている」

■「国民に奉仕する存在」であるとの誇り

 「他の工学分野、例えば、化学にしても電気や機械にしても、彼らの技術は価値があると思えば買ってもらえる商品や製品の中で生きている。(公共土木のように)直接的な税金や、国民一人一人からいただく料金で成り立っているような技術ではない。何も違いを言い立てようというのでない。ただ、そうした(他の工学分野とは異なる)世界にあるのが土木だという自覚がなければ、財政への理解を深めようという気持ちにもならないだろうし、経済のメカニズムへの関心も向かない。こうした思考や姿勢を持たないと土木を全うすることはできないということを、特に若い人に理解してほしい」
 「土木は、コンピューターの技術領域などとは違い、成果が表れるまで時間がかかる。だから、土木は遅れている古い世界だなどという思いを持つ必要はどこにもない。私たち土木に携わる者は、土を削り、土を盛り、構造物を築き、環境を形成することによってでしか、国民の暮らしを支えることができない。若い人たちには、こうした土木の世界を理解してもらい、国民に直接奉仕する私たちの存在に誇りを持ってもらいたい」

 ―「土木の意義と意味を国民と共有する必要」があるとも指摘している。

 「土木は、インフラを形成するだけでなく、その成果を引き継ぐ作用。すなわちフローではなくストックだ。だがストック経済は経済学の関心事ではないし、わが国では一時、ひどい公共事業叩きがあった。他方、中国や東南アジアなどの国で近年、急激な経済力の伸張が目立つが、それらは間違いなくインフラ整備の効果であることは誰の目にも明らかだ。海外のこうした状況を見て、さすがに公共事業やインフラ整備を悪しざまに言う声は、一時よりは少なくなってきた。それでもまだそうした声が無くなった訳ではないし、いまだにわが国の主要なメディアがインフラという言葉を使わない残念な状況が続いている」
 「わが国の首脳からはインフラの重要性が述べられることは皆無だが、海外の首脳はインフラという言葉を使って、その意義と重要性を繰り返し語っている。英国のメイ首相やドイツのメルケル首相、米国のオバマ前大統領もそうだし、トランプ大統領もそうだ。英国のキャメロン前首相などは『インフラは、現代生活をあらゆる面で支え、経済戦略の重要な要素であるから、後回しにできる課題ではない』とも『インフラは国のビジネスの競争力に影響し、ビジネスを成功へと導く糸である』とも述べている。海外のメディアはそうした各国首脳の発言を報じているが、わが国のメディアで紹介されることはほとんどない」

■自らの存在を「説明する能力」が必要

 「インフラの意義や意味が(そのようなメディアや国民にも)分かる事例の最たるものは圏央道だろう。沿線の土地利用は激変し、税の増収を生んでいる。首都高速道路中央環状線の完成には、都心環状の渋滞の激減といった、目に見える顕著な効果もある」
 「財政の厳しさは変わらない。ゆえに公共事業を行うべきではないなどと言う人がいまだにいる。こうした考えを打破しなければならない。それも土木の世界から打破する努力をしなければならない。主張もしなければならいし、そのためのデータも整えなければならない。私たち土木の世界で生きている者は、国民の税金を使って仕事をさせていただいている。自分の納めた税金がいかに国民の暮らしを安全なものにして、快適なものにしているのかを説明する能力を獲得する必要がある」
 「土木ほど、人々の暮らしに貢献できている仕事は他にはないのではないか。ステークホルダーが誰なのかも非常に分かりやすい。だから、もっと誇りを持てるはずだし、持ってほしい。誇りを持つということは、より高いレベルの仕事ができるようになることであり、より高いレベルの理解ができる人間になること。土木は、その動機付けができる世界だ」
 「ある出版社の国語辞典には、土木とは『土と木』『土石・木材・鉄材などを使って道路・鉄道・河川などを建設する工事』などと記述されている。こんな国語辞典(が使われている状況)をそのままにしておいて、若人たちに『土木は魅力のある世界だから、どんどん来てください』とは言えない。だから、そう言えるための環境整備を私たちがやっていかなければならない。歴史、経済、法学などの学問であれ、あるいはAIやIoTといった情報通信技術であれ、あらゆる分野の学術・技術が全て注ぎ込まれる一番大きな入れ物が土木でありたい」

※プロフィル=大石久和(OhiShi HisaKazu)1945年兵庫県生まれ。京都大学大学院工学研究科修士課程修了後、建設省入省。大臣官房技術審議官、道路局長、技監を歴任し、道の駅の制度化などにも尽力した。2004年7月から国土技術研究センター理事長、16年6月から全日本建設技術協会会長、17年6月から土木学会会長。著書に「『危機感のない日本』の危機」「国土と日本人 災害大国の生き方」「国土が日本人の謎を解く」「国土学 国民国家の現象学」などがある。


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