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■登録日 2016年1月22日  


『伝道師』に聞く観光振興と地域活性化

跡見学園女子大学・篠原靖准教授インタビュー

▲篠原靖准教授

 昨年11月、政府は「明日の日本を支える観光ビジョン構想会議」を設置した。訪日外国人(インバウンド)旅行者数2000万人の達成が視野に入ってきたことを踏まえ、次なる時代のロードマップを示すという。主要な検討課題には観光資源の充実やインフラを含めた環境整備が挙がる。今後の観光振興と地域活性化の在り方、そしてインフラの役割とは何か。内閣府の「地域活性化伝道師」としても活躍する、跡見学園女子大学観光コミュニティ学部の篠原靖准教授に話を聞いた。

 ―構想会議の設置をどのように捉えていますか。

 「インバウンドが好調に伸び、2020年までに2000万人とした目標は前倒しで達成できると見込まれています。その要因は、円安の進行とアジア経済が良くなってきたこと、それから、政府の努力による受け入れ環境の整備が急速に実行されたことです。特に中国やタイなど有望マーケットに対するビザの緩和が功を奏しています。日本経済発展の新たな柱となるインバウンド市場を3000万人、4000万人に拡大するために新たな会議体で今後の中長期にわたる施策などを整理することになったといえるでしょう」
 「日本の観光は、高度経済成長のおかげで国内観光需要で育ってきた歴史があります。それがバブル経済の崩壊後に需要が一気に冷え込み、観光地も疲弊しました。このため、政府は10年ほど前から『テンミリオン計画』としてインバンドの増加に本腰を入れ、1000万人を目標にがんばってきました」

 ―観光振興、地域活性化を進める上での課題とは何でしょうか。

 「年間に30~40の市町村を訪れ、さまざまな観光振興の取り組みにかかわっていますが、『このままでは5年後、10年後、この町は消滅するな』と感じる場面によく出くわします。地元でまち起こしを担う、若手と呼ばれる人が50~60代なのです。これが地方の現実です」
 「わたしは地域活性化のために五つのポイントを挙げています。その一つが『資源の発掘』です。その場所に住んでいる人たちが魅力を理解しているとは限りませんので外部の人間を入れて、どのような点に着目するのかを考えるのです。そして、その資源を生かす上での『顧客価値』を見出します。価値を創出するために資源を『編集』すると、観光ルートのモデルができます。そして、商売として金を稼げる継続的な事業として発展させるために『事業モデル化』させるのです。最後は『人材育成』です。この五つがそろって地域活性化と観光が初めてつながることになるのです」

 ―観光とインフラはどのように位置付けられるのでしょうか。

 「関東地方整備局長の石川雄一氏と懇談した際に、昨年9月に発生した関東・東北豪雨が話題に上りました。『過去から現在まで国が着実に治水対策を講じていなかったら、鬼怒川流域に同時多発的に被害が広がっていたであろう』とのことでした。その具体的なストーリーを分かりやすく説明していただき、わたしは『そうだったのか』と素直に受け止めることができました」
 「ここで提案したいのは『日本のインフラ観光』です。災害がいつ起こるか分からないのは、どの国にも共通しています。日本が持つ防災にかかわる優れた知見や技術力を知らしめるべきですが、現状ではその資源を観光素材としてうまく加工・編集できていません。『起こりうる可能性がある災害』と『対策としての高度な知見や防災技術』を分かりやすく伝えること。観光は物語、すなわちドラマをつくることにあります」
 「さらには全国各地にあるインフラ自体にも観光資源として高い魅力があります。例えば、春日部市の首都圏外郭放水路を訪れた人々は『日本の洪水対策はすごい、地下水路がまるで地下神殿のようで感動した』と話すわけです。平常時には価値が分かりにくいインフラの必要性と高度な技術に裏打ちされた価値を伝えることができる、これこそが『インフラ観光』だと思います」

 ―地域活性化での成功・失敗事例、そこから見えるものとは何ですか。

 「東京五輪を控えた今、日本の観光には奥行きの深さが求められています。初めて訪れた外国人が大都市東京の豊富な観光メニューを体験し、魅力を肌で感じることがリピーターの確保へとつながります。こうした中、舟運の栄えた歴史に裏打ちされた面白い社会実験『秋葉原~羽田空港舟運プロジェクト』が昨年秋に行われました。国土交通省の他、関係各区や観光協会、そして大学など地元が航路を育てる取り組みです。東京の風景を舟上から楽しむ新たな観光客の層が動きます。秋葉原も電気街での爆買いがクローズアップされていますが、近隣の神田明神などに観光エリアを広げることで、厳しい状況にある近隣の商店街にも新たな観光客が流れ、良い経済効果をもたらすことが分かりました」
 「これは『産官学プロジェクト』の典型的な成功事例と言えます。観光に精通した教員の知恵が生かされ、空港での旅客のアテンドは大学で観光を学ぶ学生たちが担いました。地元の商店街も協議会に積極的に参加し、新たな観光コンテンツを地域振興につなげようと真剣に議論しています。地元の皆さんによる観光の新たな取り組みにつなげたことが成功の要因であり、新たな優良コンテンツには人が集まることがこの実験であらためて分かりました」
 「一方で失敗する事例には幾つかのパターンがあります。例えば、高速道路や新幹線が開通して便利になったのに、団体・周遊といった旧来からの観光の流れを払しょくできない事例です。インフラの整備で一時的には観光客があふれるのですが、話題が一段落するとブームが終わってしまいます」
 「わたしは、今までの観光を『コンビニ型』と捉えています。団体が主体の周遊型、宴会型の『いつでも』『どこでも』『どなたでも』という便利さや手軽さを求めたスタイルです。しかし、これからは『すし屋のカウンター型』でなければ集客が難しくなると思います。『いまだけ』『ここだけ』『あなただけ』がキーワードです」

 ―オリンピックを見据え、インフラツーリズムをどのように考えるべきでしょうか。

 「64年のオリンピックでは、敗戦国だった日本が元気になったことを世界にアピールできました。新幹線や首都高速道路の開業はその一例です。今度のオリンピックでは、先進的で成熟した都市空間を世界に見せることが大切です。防災を含め、日本のインフラが果たす役割は先進的で世界に誇れるものです」
 「リニア中央新幹線など、インフラ輸出の戦略も観光業界とコラボレーションしたいところです。大都市東京の魅力に奥行きがあれば、リピーター率が向上し、地方にも波及します。インフラの継続的な整備とともに観光も発展していくのです」

※略歴=篠原靖氏(しのはら・やすし)1981年中央大学商学部卒。同年東武トラベル入社。約30年間にわたり観光素材の発掘・旅行商品の開発を手掛け数々の旅行商品を大ヒットさせる。一方、全国の観光地や自治体の観光地域振興を幅広く手掛けて多くの地域活性化を実現。こうした実績が評価され、07年、「内閣府地域活性化伝道師」に任命される。国土交通省「社会資本整備審議会委員」など各省庁の委員も歴任。10年より現職。


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